「…誰だ!パイオニア2のものか?」
扉の先は、正方形に広い部屋だった。遠くでクリスタルのような大きなオブジェが輝いている。そのオブジェの前に立っていた男は、私が近付いて来るのを見て、そう言った。そのまま歩いてくる私に明らかに警戒しているようだったが、私の顔を見た途端、表情が一変した。そしてこう続けた。
「あんたは…久し振りじゃないか。オレだ。アッシュだよ。覚えているかい?ずいぶん前に助けてもらったじゃないか。ほら、地表でさ。」
私は、目の前の男の顔をしげしげと眺めた。言われてみれば、ずいぶん昔に、ラグオルの森で倒れていたのを助けてやった坊やである。私は、相手が自分のことを覚えていたことに、少し驚いた。
「あれから、あんたの背中を守れるくらいになるってのを目標に修行してきたからさ。また会えて嬉しいよ。」
男は迷いもなく言い放つと、少し照れたように鼻の頭をかいた。私は、彼の言うことがよく理解できなかった。ヒューマンが、ニューマンに?ヒューマンはニューマンを許さない…ニューマンはヒューマンを許さない……混乱する私の脳裏に、ダークブルーの髪のおっとりしたフォマールと、真っ白なヒューキャストの顔が浮かんだ。その途端、ふっと体が軽くなる感じがした。
「そう……関係ないのよね……」
何だかとても簡単なことを忘れてしまっていたようだ。私は顔にかかった金髪を振り払い、にやりと笑ってアッシュに人差し指を突きつけた。
「本当に私の背中をまかせられるか、見てあげるわ。ちょっと私の仕事を手伝いなさい。」
私を呼ぶ何者かの声はまだ頭に響いている。…ハヤク…コイ……ハヤ…ク…。
私はいつかこの声に負けてしまうのかもしれない。なぜならこの声は、私自身の声だから。…でも守りたい人と守ってくれる人がいる限り、足掻いてみようかと思ったのだ。目の前の男は、私をつなぎとめてくれるだろうか。
「そうね、とりあえず…あんたはやめてくれない?私の名前は…」
私は、彼に名前を教えたくなった……そう、何となく。
完